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第9回 熊本・鹿児島 最寄駅から空港まで歩こう

今回は、熊本から入って鹿児島から帰る旅です。
いちばんの見どころは築100年強の嘉例川駅だけど、ただそれを見に行くというだけではない。

私とイノキンさんは夜に熊本空港から入って、熊本空港から市内に行くバスに乗り込みます。
バスの車内アナウンスが「つぎは、自衛隊前! 自衛隊前ですっ☆」って、妙に元気な女の子だと思ったら、スザンヌだ!
熊本出身のスザンヌが「熊本県宣伝部長」を務めてるから、こんなところでも意表をついた活躍をしているんです。初めて来た人にはちょっとおもしろいけど、よく東京に出張する熊本人にとっては慣れっこなのか?

熊本駅で、明日の計画を立てるために時刻表を買おうとすると、どこでも見かけるJR時刻表などに混ざって、見慣れない『綜合時間表』なる冊子があります。どうやら九州限定の時刻表らしい! こっちを買うしかあるまい。「時間表」っていうひびきが新鮮なので、私たちはその冊子をずっと正式名称で「時間表」と呼びつづけました。時刻表ではありません。

さて、翌朝わたしたちは時間表で計画を立てたとおり、通勤客で案外にぎやかな熊本駅から「九州横断特急」で山の方へ向かうのだ。熊本駅は近いうち新幹線がでるので改装中、ということは今はまだ古い感じが残っている。駅の看板もまだ国鉄ムードで、私は大好きなタイプです。特急は心配になるほど客席スカスカ。

ところで、私は車体にほとんど興味がないのですが、そんな私でもJR九州の車輌って全体的にかっこいいと思った。特急のボディは赤に黒ラインの入った高級感あふれる感じ。関東のほうではあんまり見ない渋さでかっこいいよ。普通列車も、真っ赤なラインが入ってて未来的でかっこよい。

のちに調べたところによると、JR九州の車輌デザインを手がける水戸岡鋭治さんはいままでグッドデザイン賞などを含む数々の賞を受賞してるんですって。鉄道とデザインっていうあんまり結びつかないところで、JR九州はがんばってるとおもうよ!


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私たちが乗る肥薩線という路線は、スイッチバックとかループ線とか、鉄ちゃん的に見どころたっぷりなので、鉄道ネタの中ではわりとベタなようです。ベタすぎて、あまのじゃくの私としては逆にあんまり興味がなかったのですが、途中駅の駅舎が古いと聞けば黙っていられません。古い駅舎好きの血が騒ぎます。

特急は球磨川の渓谷を縫うようにして、小駅は全部飛ばしながらすばらしい景色のなかを人吉駅に着きます。
小駅もできれば全部停まりたかったんだけどね。本数が少なすぎて計画がハタンするからあきらめました。
山あいにある人吉という街はほんとうにいいところだった。空気がいい。というのは、排気ガスがないとかいうことではなくて、なにかこう街の醸し出す、言葉で説明しにくい雰囲気が非常にいい。活気にあふれた街とまでは言えないけれど、地方都市にありがちな、げんなりするようなさびれた感じを受けない。そしてどういうわけかやたらと美容室が多い。

さて、人吉では汽車の接続がものすごく悪くて3時間ほど待たされるので、そのあいだにオシャレカフェを見つけてしまおうという魂胆です。

川の向こうに人吉城があり、そのあたりには武家屋敷が並んでいるようですが、そこはあまり見ずに「ぶけぐら」というカフェに入って焼酎アイスというものを食べました。よく見る地方の特産アイスですが、これはなかなかおいしかった。「ぶけぐら」はオシャレカフェというより、もっと力の抜けたゆるい喫茶店。それはそれで、好き。

時間がちょっと余ったのでさらにもう一店。「さんぽカフェ」へ。前を通ったら雰囲気のあるつくりだったので、カフェをハシゴすることになった。
人吉城のお濠が見える位置にある、蔵を改造したタイプのカフェです。1階が雑貨屋(かなりセンス良さそうだったが残念ながらお休み)、2階がカフェ。お濠に面する形でカウンター席があり、風が抜けて気持ちがいい。この街で蔵の感じを残したまんま、こういうカフェをやってることは素直にステキだと思う。


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ただ、さすがにカフェのハシゴをしたら3時間の持ち時間も危なくなってきたので、あまりのんびりできずにカフェを出る。

商店街を斜めに渡って駅に戻って、吉松行きの普通列車に乗る……はずが、あれー、これは普通列車じゃないんじゃないの。デザインもすごく豪華だし、「いさぶろう・しんぺい号」って書いてあるよ。そして、いかにも観光客といったじいさまばあさまが大量にいらっしゃる。なんだこれは。ホームには弁当売りのおじさまがいる。「べんとーーぃ、××(聞きとれず)?!」といい声をあげてる。

どうやらこれは観光用の普通列車とのこと。中が和風個室居酒屋みたいな感じになってる。お客のじいさまたちはお酒も入っていい感じです。特急ではないけど、指定席で500円必要でした。きちんと調べておけばよかった。

この区間は利用者がほとんどいなくて、もはや路線そのものが観光用になっているのだ。ループ線とか、古い駅舎とか、スイッチバックとか、見ものが連続でたくさんありますものね。


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隣席の敬老会御一行が盛りあがるなか、一駅目の大畑へ。ここは「ループ線の中にあるスイッチバック駅」という日本唯一の環境なので鉄ちゃんには特に人気が高く、駅舎(古いまま残してあるどころか、看板などはあえて古いものに付け替えたんじゃなかろうか)のあらゆるところに、来駅記念の名刺がはさんであります。

誰かがやり出したのを人がまねていったんだろうけど、駅舎中名刺だらけですごいことになってるんだ。神社に貼られた千社札のよう。

なぜ途中駅の駅舎をこんなに見れるかというと、この観光列車は一駅一駅で数分ずつ見学用に停車してくれるからです。なんかそういう100%観光用の感じはあんまり好きじゃないんだけど、たまにはいいか。

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ループ&スイッチバックの大畑の次はSLがなぜか保存してある矢岳。その次はスイッチバックの真幸。
すべての駅に見どころがあって、しかもぜんぶ駅舎が古い。そんななかなかの観光スポットをめぐりながら私は何を見てたかというと、観光スポットも見たけど、盛り上がるお客のじいちゃんたちがかわいかったのでずっと見てた。記念写真を撮るじいちゃんたちの写真を撮ったりしていた。すみません。


で、汽車は終点の吉松駅につく。
敬老会御一行は、さらに次の特急に乗り換えて鹿児島へ向かってしまいました。しかし私とイノキンさんは吉松にとどまり、普通列車を待ちます。1時間以上。

吉松駅近くには喫茶店も見つからず、駅売店にもおみやげらしいものがほとんどない。1時間のひまをつぶすのに適したものがない駅であった。駅前にこれまたなぜかSLが展示してあるんだけど、そのまわりでは地元の子供たちが遊んでるからあまり見る気になれない。
ただ、駅の待合室になぜか畳の間があったのである! 
そりゃ寝るわ。

わたしもイノキンさんもそこで寝転がって、ほんとうにちょっと寝てしまった。そうして鋭気を養って普通列車に乗り、嘉例川に向かう。

そう、今回の最大の目的は嘉例川駅。そして、嘉例川のために私たちは鋭気を養う必要があったんだよ。なぜかって、それはこの先で書きます。

吉松から隼人に向かう列車はスカスカな状態から途中で高校生を乗せ、嘉例川に着きました。
嘉例川は山間の集落にある無人駅。いままで見た駅も古かったけど、ここは随一で、国の登録有形文化財にも指定されているほどのところです。ここにはきちんと降りてみたかった。

嘉例川を日常ふつうにつかっている高校生たちも降りて、駅前に止めた原チャリに乗って思い思い帰っていく。待合室の木製ベンチもどうやら製造から百年以上経っているらしい。百年も人に触られて、つやつやになっているんだよ。

ただ、ここはやはりちょっと有名になっていて、駅の元事務室と思われるところにいろいろ資料が置いてあったり、多少は観光仕様になっています。ホームにある大きな看板も歴代のものが全部取ってある様子で、デザインの変遷がなかなかおもしろいです。

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本屋は若干きれいにされすぎてしまった感じがあり、掲げられた「嘉例川駅」の看板だけが妙に新しいので、遠くから見るとロケ用のセットみたい。まあこういうのは致し方ないか。

嘉例川には、わざわざタクシーで乗り付けて観に来ている観光客とおぼしきカップルもいた。
電車で来いよなー。

「え、能町さん……私たちだって今までさんざんタクシーとか車に乗ってますよ

 あ、そうでしたね……。すみません。
 で、わたしはこの嘉例川で何をしたかったか、というと、ただ古い駅を見てみたかっただけじゃない。
 メインイベントは、嘉例川から鹿児島空港まで歩いて行ってやろう。という試み。

だいたい空港ってものは、都市からだいぶ離れた山奥だの海際だのというところにある。だからふつうはバスやタクシーや車で行く。都市にわりと近いところ(羽田とか)にある場合は電車等で直接乗りつけられてしまう。なんにせよ、空港に「徒歩で」行く、ってことはなかなか聞かないことです。

嘉例川というステキな駅は、なんと鹿児島空港の最寄り駅でもあるのです。じゃあ歩いて空港に行ってそのまま帰ればいいじゃない。っていう、ごく単純なことなのさ。
ま、最寄りといっても約5キロあるんだけどね。

でもいちばん近い駅なのは間違いないんだから! 
歩いて行けない距離じゃないよ。歩くよ、マジで。

嘉例川の駅を出て、集落内の小さな道を右に進み、細い道を左に折れると、思った以上に狭い道! いきなり牛がたくさんいる。わ、ここ牛舎か。広大な牧場風景じゃなく、民家のとなりに牛舎、周りは竹林。道はどんどん山の中へ分け入って行く。舗装はされているけど、落ち葉のくさったようなのが堆積していて道はぐちゃぐちゃ。


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ちょっと行く先不安になるのは、空模様がちょっと怪しいせいもある。でも今までの旅をすべて見事に晴れさせてきた晴れ女のイノキンさんがいるんだ。たとえ今日の予報が降水確率80%(マジ)だろうと、彼女ならどうにかしてくれる!

真っ暗な急坂を上ると、いっきに開けた。そこから大きな道に出るホッとした。
しかし、そこはトラックがボンボン走っていて、民家が見事に一軒もない、歩道もない、ずーっと森に囲まれただらだらの上り坂道。見渡す限り……いや、森で見渡せないけど、ほんとになんにもありません。なんか怖いな。

ぬるい上り坂をずーっと上がって、けっこう疲れて、すると道は途中から峠を越えて下ったり、また上ったり、起伏のある区間を越えて……まだ一軒も家がない。自販機とかももちろんない。トラックや車がたまに通るばかり。

2キロか3キロは歩いたんじゃないか。もうそろそろ空港らしき雰囲気が見えてもいいんじゃないの、と思っていたそのとき。

ゴオオオオ……

「あ、飛行機の音?」

「ですかね?」

「どっかに……あ!!!」

 森のあいまに開けた空に、超デカい飛行機が登場!

「わあああーーー!!!」

「でっかい!! でっかいよ!!!」

そりゃもう大興奮だよ。空港以外で、あんな大きな姿の飛行機を見たのは初めて。着陸直前だったんだと思う。
こうなったらもう近いぞ!足取りも軽く、一気に森を抜けて、広大な飛行場が現れた……! と思ったら、あれ?
 あそこの高いフェンスはまちがいなく滑走路の端だと思うけど、やたら立ってるプロペラのついた柱みたいなのは何? 空港の設備?


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よくみたらここ、ただの広大な茶畑でした。プロペラは、茶畑にはよくある「霜よけ」なんだって。

やっと空港に着いたかと思いきや、滑走路がほんのちょっと見えるだけで、空港のメインの建物はどこだかさっぱり分かんない。空港の周りの台地はほとんど茶畑で囲まれていて、ここは茶畑の向こうに空港敷地のフェンスが見えるだけのところなのでした。

あ、台地の茶畑の先に、尾翼がちょろっとのぞいてる。かわいくてシュールでステキな光景! そしてこの光景に、イノキンさんは今まででいちばんテンション上昇!

「すごいですよここは! 写真撮りましょう写真!!」

イノキンさんは私よりも率先して茶畑のどまんなかの細い農道にぐんぐん入っていった。

茶畑の中にポツンと光るイノキンさんのピンク色のパーカーと、まるで茶畑の上に着陸したように見える飛行機と……。映画のような幻想的な光景がそこに出現したのであるよ。ほんとうにいい絵でした。


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空港って滑走路がすごく広いので、茶畑ゾーンから空港の入り口に行くまでは意外にもかなり長く(たぶん2キロくらい)、いちど滑走路が見えて安心してしまった私たちとしてはちょっときつかった。

しかし、空港入り口に歩いて到達したときは、ついポーズをとって記念写真まで撮ってしまいました。まさに感動のゴール。

「最寄り駅(しかも文化財)から歩いて空港へ」、達成!

 茶畑と飛行機という、予想もしていなかったすばらしいコラボレーションを見られたし、徒歩で空港に到達という無茶をやってみて本当によかった。最終的には鉄道ネタから遠くなってるけど、気にしない。気にしないよ。

それにしても、イノキンさんの晴れ女ぶりはまだ健在でした。降水確率80%にもかかわらず、雨はたまーにパラパラと降るくらいでほとんど傘は必要なかったのです。80%をどうにか力技でねじ伏せた形。このパラパラがいままでの取材で初めての雨なのでした。
 

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(本連載『うっかり鉄道』は、10/8に全国の書店で発売されます!)
 
『おんなふたり、ローカル線めぐり旅 うっかり鉄道』
(メディアファクトリー)





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2010.10.01 | | 鉄道

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プロフィール

思いつきツアーズ

Author:思いつきツアーズ
能町みね子
大学卒業後、ネクタイ時代、OL時代を経て、現在は文筆業&イラスト描き。雑誌、Webなどに多数の連載をもつ。

著書に、モテない系女子の日常を描いたフィクション漫画『縁遠さん』(メディアファクトリー)、一部の女子に熱狂的な支持を受けた『くすぶれ!モテない系』『呻け!モテない系』、世の中のすべてをロハす基準で格付けした『ロハす事典』(すべてブックマン社)のほか、『たのしいせいてんかんツアー』(竹書房)、『オカマだけどOLやってます。完全版』(文春文庫)など。
能町みね子のふつうにっき

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