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第2回 岳南鉄道・富士と工場のテーマパーク

岳南鉄道がなんでこんなに注目されてないのか分かりません。

鉄ちゃん自体、もうわりと市民権を得た感がありますが、世は廃墟だとか工場だとかへの萌えでも盛り上がっているではないですか。岳南鉄道はこの3つの要素をあわせ持っているんです。鉄ちゃんのみならず、廃墟好きや工場好きのたぐいが大挙して押しよせてもいいはずなんですよ。

「ということで、今回は岳南鉄道さんぽに行きましょう。工場の景色がね、ほんとにいいの」
「はあ」

 イノキンさんが工場萌えの素質を持ってるかどうかは置いといて、わたしが今知っている中ではいちばんアトラクション度高いのが岳南鉄道です。静岡県の、富士山にあるから「岳南」。東京からなら新幹線で三島まで行き、各駅停車に乗り換えて吉原。そこから乗り換える私鉄です。東京からずっと各駅停車で行っても苦になる距離ではないです。

東京駅で待ち合わせると、イノキンさんは「昨日買っておきました!」と、やる気たっぷりで新富士までの切符を渡して来た。

 いきなりうっかりだ!!
 新富士は三島の次の駅だよ。行きすぎだよ。

「すいません、なんか、富士山のイメージが強かったのでつい……」

切符の払い戻しで早くも当初の予定から遅れたものの、新幹線でばーっと三島へ、そして吉原へ。
まだ午前10時。JRのとなりの小さなホームには、これまた 小さな赤い電車がかわいく一輌だけ停まっています。発車まではまだ時間があるので、休日限定乗り放題切符を買ってからちょっと吉原駅周辺を歩いてみる。さみしい。駅前がガランとしている。いわゆるシャッター通りと言うよりも、もとからほとんど何もなかった風情。

のんびり戻ってきたら、あら、さっきの赤いのがもう行っちゃってました。次の電車まで40分待ちです。

わたしたち、こんなときどうする?

そりゃもちろん歩くよね。先の駅まで歩くよ。これまでいつも私はそうしていた。

イノキンさんが「地図あるんですか?」と心配してくるけど、なんとなくでいいよ。
こっちかなーっていう方向に歩けばどっかの駅着くよ、たぶん。

ああ、正面にはよく見える富士、すばらしい青空
しかしそれに反して、くさい。
このへんは製紙工場がたくさんあるんだ。煙突がモクモクしてて、くさい!!こりゃ東京より空気悪いな。

そんななかを、なんとなくので次の駅に歩きます。来る前に少し見た地図の記憶では、2つ先ののほうになら歩けるはずだった。でも、勘の方向にいくら歩いてもなんにも見えてきません。街らしきところにたどりつくはずなのに、ずっと工場っぽい殺風景な景色が続いて、街っぽさのかけらもない。それにくさい。

2キロくらい歩いたら初めてコンビニがあった。チョコまんを買って、地図を見てみました。
 
超まちがってたー。

2コ先の駅を狙っていたつもりが、もう4コ目の駅のそばまできていたのでした。そりゃー長く感じるわけだ。ま、それでも4駅分歩いたのはある意味得したよ。

「あ、ほら、踏切見えてきた!」
「あ、よかったー。あのへんが駅ですかね?」

ふたりが達成感に浸ったのもつかの間、あ、目の前で踏切が閉まって、一輌のかわいい電車が、あ、無情にも……行ってしまった……。切符うっかり道うっかりのおかげで電車2本も逃すとは。また30分待たなきゃいけない。
 
やっと着いた岳南原田駅は年季の入った木造で、私の大好きな感じの駅だったのが不幸中の幸いです。写真とか撮ってぼんやりしてたら30分なんてすぐ過ぎるさ。


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ほら電車が来ました。
ああ、やっと電車に乗れる。
岳南鉄道に乗りに来たのに、乗るまででこんなに文字を費やしてやがる! なんて効率が悪いんだ!



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で、岳南鉄道のクライマックス岳南原田駅と比奈駅の間なんです。道をまちがったせいでいきなりクライマックスシーンから乗っちゃって、ちょっともったいない。

なぜここがクライマックスかと言うと、工場工場まんなかを縫ってくねくねと電車が走るのです。電車の上を平気で工場のパイプがまたいだり、大きなタンクの横を通ったり、まるで工場の中を運ばれていく気分なんです! 電車が工場に呑まれてる感じなんです! ディズニーランドアトラクションみたい!

あのワクワク感、文字じゃ表しきれないよ。

いきなりのクライマックスが終わると電車は比奈駅に着く。ここでもう私たちは降りました。
なぜか。ここにオシャレカフェがあるからさ。

ここには木造駅舎(意外にも無人じゃなかった)がぽつねんとあり、大きな富士が見え、その前にめちゃくちゃにパイプのはりめぐらされた工場があり、「喫茶美人」というボロッボロの看板(本体はどこだか不明)がある。駅のそばにはいつ打ち捨てられたのか分からない、塗装が完全にさび切った古い電車(?)がいくつも置いてある。あとは殺風景な工場の寮のようなものと砂利の敷かれた空き地しかない。そしてやっぱりくさい。


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なんなんだこの荒涼とした地は。ゴーストタウンなのか。でも、富士が見えるからアメリカ西部の雰囲気は皆無。日本で唯一と思われるこんな独特の雰囲気の地に、ローカルオシャレカフェが! 奇跡の立地なのです。
駅を出て空き地をつっきり、人通りが全くなくてトラックだけがごくたまに通る道を渡ると、小さな四角いふつうの家がありました。よく見るとテラスにテーブルが置いてあって小さな看板があって、そこが「比奈カフェ」なのでした。


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どこにでもある油断だらけの駅前喫茶ではありません。家具のひとつひとつがかわいく、だるまストーブがあるすてきなカフェです。ここにオープンしてまだ5年程度らしい。

なによりこのとんでもないロケーションで、私はここに200点くらい与えてしまう。だってここ、21時半終電が行っちゃう駅と、工場しかないんだよ。そ して富士が見えるんだよ。ここにカフェを作ろうっていう意気に花束だよ。わたしは2か月に1回くらい、自分へのごほうび(OL用語)としてここに来たいね。ここでだらだら本読んだり仕事したり、するんだ。ふふ。

長く歩いた疲れもあって、私とイノキンさんはそこでだいぶだらだらしてしまった、が、岳南鉄道にはまだ一駅分しか乗ってないんだった。もっと楽しまなきゃ。ちなみに、岳南鉄道の乗り放題券は400円という採算度外視の価格でございます。終点まで片道320円なのに! ひどい安さだよ、だいじょぶなの?

比奈から、とりあえず終点まで行ってみましょうか。車内の席は2~3割しか埋まってない。休日のためか、いかにも鉄ちゃんと思われるおじさまがたがものものしいカメラをたずさえて乗っている。が、ビニール袋牛乳やらミカンやらでパンパンにして爆睡している母娘連れもいます。よかった、地元の人もいるんだよ。田舎に行って鉄道を使うと、「乗って残そう○○線!!」っていう看板がよく置いてあるけど、それはもうつぶれそうだというサイン。岳南鉄道にそれはなかったのだ。ここはきっとつぶれないよ。
 
そんな電車はのんびりと終点の岳南江尾駅へ。
岳南江尾。どことなくこの世の果てのような悲しい駅。木造の古い駅舎はあるけれど、人はいない。駅を出ても店ひとつない。前に来たときは駅を出てすぐ蛇に出くわした。

なんでこんなに悲しい気持ちになるかというと、きっと真上を通る東海道新幹線高架線路のせいです。ときどき、ゴオオオ!! というとんでもない音を立てて新幹線が一瞬通過する。高架の陰のせいか、一帯は薄暗い。この小さな駅も鉄道という点では一緒のはずですが、あまりの格差です。

せめてここに新幹線の駅を作ってあげればよかったのに。
そしたらみんなこの駅を乗り換え駅にして、どこかに行くのにね。

でも、私はほんとは、このさみしさが好きなんだ。

岳南江尾では特に何も見ず、いま来た電車にそのまま乗って戻ります。あれ、さっきの買い物袋をもった母娘連れがまだ乗ってる。え、なんでここまで来たの? まさか、鉄ちゃん? でもその生活感あふれる買い物袋はどう見ても地元の人。

母娘は岳南富士岡駅で降りました。小4くらいの女の子が、いそいそと電車写真を撮っている!

どうやら、まさかの母娘鉄道マニアなのでした。父&息子なら分かるんだけど、いまどきの鉄道マニアの裾野は広いなあ。でも、買い物袋からして、地元の人なのはまちがいないと思う。地元の岳南鉄道が大好きってことなのかな。
 
電車は起点に戻って行き、その間、またさっきの比奈~岳南原田間クライマックスゾーンを通ります。


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工場! パイプ!! わたしはこの雰囲気を収めたくなって、デジカメを動画モードにしてしまった。

いちばん前に行って撮りましょうよ!」

イノキンさんがそそのかすものの、すでに電車大好きの小学生数人がかぶりつきの席にいる。そこにこんな得体のしれない中年女性が行ってはいけないと思う(自分で中年って初めて書いた。今日は中年記念日)。

 
そんなわけで、子どもの頭越しに、こっそりと動画を回しました。
画面下部にずーっと子どもの後頭部が映りこんだ工場動画を撮り終え、私たちは本吉原駅で降りた。

すごい駅です。「本」がついてて本物感を出してるわりには、バーミヤン(ファミレス)の駐車場フェンス途切れたところが入口と言う、異様に肩身が狭い無人駅です。広い駐車場と巨大な工場のタンクの間にちょびっとホームが置いてある感じで、かなり近くに来ないと駅の存在にすら気づきません。
 

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本吉原吉原本町(次の駅。名前がややこしい)のあたりは吉原という街の中心地。駅間の距離がものすごく短いので、私たちは吉原の街をさんぽしながら吉原 本町駅に向かいました。

おっきなコッペパンのある「日東ベーカリー」は、コッペパンの間にいろんなクリームをサンドしてくれます。私はきなこクリームをサンドしてもらいました。イノキンさんは、あんバタ男子学生レベルのボリュームでした。

吉原本町の駅は小さいけれど、本吉原と違ってだいぶ存在感がある。きちんと商店街がつらなっていて、街っぽい。じゃっかんシャッター通りのケがあるけれども、岳南鉄道とともにがんばっていただきたいものです。
 
吉原本町駅から吉原駅まで戻る間も、左右に工場が見える。間にある「ジャトコ前」駅なんていかにも工業地帯の駅です。その名のとおり、ジャトコという工場の前にあります。でも、工場群はちょっと線路から離れているので、アトラクション度で言うと断然「岳南原田~比奈」のほうが上だね。

とまあ、どうにか乗りつくして吉原駅に帰ってきた私たちです。

「わたし、いきなり切符まちがえてすみませんでした……」
「いや、私こそてきとーに歩いたからまちがったし。でも、やっぱりここ楽しい」
「あ、そうですね。がかわいかったです。あと、途中の駅にいたが」

イノキンさんのツボの中に工場は入ってなかったです。
でもいいの。ふたりともテツかわいい部分は十分味わったから。



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(次回は、4/23に更新予定です)

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2010.04.08 | | 鉄道

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プロフィール

思いつきツアーズ

Author:思いつきツアーズ
能町みね子
大学卒業後、ネクタイ時代、OL時代を経て、現在は文筆業&イラスト描き。雑誌、Webなどに多数の連載をもつ。

著書に、モテない系女子の日常を描いたフィクション漫画『縁遠さん』(メディアファクトリー)、一部の女子に熱狂的な支持を受けた『くすぶれ!モテない系』『呻け!モテない系』、世の中のすべてをロハす基準で格付けした『ロハす事典』(すべてブックマン社)のほか、『たのしいせいてんかんツアー』(竹書房)、『オカマだけどOLやってます。完全版』(文春文庫)など。
能町みね子のふつうにっき

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