【発売記念】 おまけコラム1 テツかわいい鹿島鉄道の思い出
いよいよ明日、本連載『うっかり鉄道』が全国の書店で発売されます!
『おんなふたり、ローカル線めぐり旅 うっかり鉄道』(メディアファクトリー)
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ネットではちょっと読みにくかったものも読みやすくなり、
写真も入り、コラムも入って、けっこうなボリュームで本になりました。
おめでとうございます。いえいえ。ありがとうございます。
鉄道ファンじゃない方が楽しめるかもしれません。
鉄道ファンの人は読んで「甘い」と叱ってください。叱られたいです。
能町みね子
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もちろん、単行本には、連載には掲載されなかった
未発表の書き下ろしやコラムなども収録されています。
北海道から沖縄まで…テツかわいい巻頭口絵の写真も必見です。
能町さんのテツへの深い造詣もしっかり伝わると思います。
ぜひぜひ、読んでみてください! イノキン
【発売記念】 おまけコラム1 テツかわいい鹿島鉄道の思い出
実家からわりと近いところにあった「鹿島鉄道」が私は大好きだったのですが、沿線に街らしい街がほとんどない路線なので、案の定2007年に廃線になってしまいました。
思い出深いので、なくなる数日前に友達と乗ってきました。鉄道マニアでごった返すというより、なごりおしい地元の人でごった返すかんじで、平和でした。
あの路線の「八木蒔」という駅をこんなに好きなのはたぶん日本でもわたしたちくらいのものでしょう。
初めて行ったときは深いやぶの途中で突然停まるから事故か何かかと思ったら、そこが駅だったんです。気づかないくらい小さくてボロボロで、友達とのあいだでは通称「やぶ駅」と呼んでいました。看板の文字もまんまるで、とてもかわいかった。
沿線に住む高校の同級生は、「朝、走って駅にかけこんだらちょうど発車してしまったところだった。あー遅刻か、と思ったらバックして戻ってくれた」という信じられないような経験を持ってました。
なんてのどかなんだ!
でも、あののどかさももうないんだなあ。
…
前も後ろもやぶなんです。民家はちょっと離れてる。
まんまる文字の看板。
2010.10.07 | | 鉄道
第9回 熊本・鹿児島 最寄駅から空港まで歩こう
今回は、熊本から入って鹿児島から帰る旅です。
いちばんの見どころは築100年強の嘉例川駅だけど、ただそれを見に行くというだけではない。
私とイノキンさんは夜に熊本空港から入って、熊本空港から市内に行くバスに乗り込みます。
バスの車内アナウンスが「つぎは、自衛隊前! 自衛隊前ですっ☆」って、妙に元気な女の子だと思ったら、スザンヌだ!
熊本出身のスザンヌが「熊本県宣伝部長」を務めてるから、こんなところでも意表をついた活躍をしているんです。初めて来た人にはちょっとおもしろいけど、よく東京に出張する熊本人にとっては慣れっこなのか?
熊本駅で、明日の計画を立てるために時刻表を買おうとすると、どこでも見かけるJR時刻表などに混ざって、見慣れない『綜合時間表』なる冊子があります。どうやら九州限定の時刻表らしい! こっちを買うしかあるまい。「時間表」っていうひびきが新鮮なので、私たちはその冊子をずっと正式名称で「時間表」と呼びつづけました。時刻表ではありません。
さて、翌朝わたしたちは時間表で計画を立てたとおり、通勤客で案外にぎやかな熊本駅から「九州横断特急」で山の方へ向かうのだ。熊本駅は近いうち新幹線がでるので改装中、ということは今はまだ古い感じが残っている。駅の看板もまだ国鉄ムードで、私は大好きなタイプです。特急は心配になるほど客席スカスカ。
ところで、私は車体にほとんど興味がないのですが、そんな私でもJR九州の車輌って全体的にかっこいいと思った。特急のボディは赤に黒ラインの入った高級感あふれる感じ。関東のほうではあんまり見ない渋さでかっこいいよ。普通列車も、真っ赤なラインが入ってて未来的でかっこよい。
のちに調べたところによると、JR九州の車輌デザインを手がける水戸岡鋭治さんはいままでグッドデザイン賞などを含む数々の賞を受賞してるんですって。鉄道とデザインっていうあんまり結びつかないところで、JR九州はがんばってるとおもうよ!
私たちが乗る肥薩線という路線は、スイッチバックとかループ線とか、鉄ちゃん的に見どころたっぷりなので、鉄道ネタの中ではわりとベタなようです。ベタすぎて、あまのじゃくの私としては逆にあんまり興味がなかったのですが、途中駅の駅舎が古いと聞けば黙っていられません。古い駅舎好きの血が騒ぎます。
特急は球磨川の渓谷を縫うようにして、小駅は全部飛ばしながらすばらしい景色のなかを人吉駅に着きます。
小駅もできれば全部停まりたかったんだけどね。本数が少なすぎて計画がハタンするからあきらめました。
山あいにある人吉という街はほんとうにいいところだった。空気がいい。というのは、排気ガスがないとかいうことではなくて、なにかこう街の醸し出す、言葉で説明しにくい雰囲気が非常にいい。活気にあふれた街とまでは言えないけれど、地方都市にありがちな、げんなりするようなさびれた感じを受けない。そしてどういうわけかやたらと美容室が多い。
さて、人吉では汽車の接続がものすごく悪くて3時間ほど待たされるので、そのあいだにオシャレカフェを見つけてしまおうという魂胆です。
川の向こうに人吉城があり、そのあたりには武家屋敷が並んでいるようですが、そこはあまり見ずに「ぶけぐら」というカフェに入って焼酎アイスというものを食べました。よく見る地方の特産アイスですが、これはなかなかおいしかった。「ぶけぐら」はオシャレカフェというより、もっと力の抜けたゆるい喫茶店。それはそれで、好き。
時間がちょっと余ったのでさらにもう一店。「さんぽカフェ」へ。前を通ったら雰囲気のあるつくりだったので、カフェをハシゴすることになった。
人吉城のお濠が見える位置にある、蔵を改造したタイプのカフェです。1階が雑貨屋(かなりセンス良さそうだったが残念ながらお休み)、2階がカフェ。お濠に面する形でカウンター席があり、風が抜けて気持ちがいい。この街で蔵の感じを残したまんま、こういうカフェをやってることは素直にステキだと思う。
ただ、さすがにカフェのハシゴをしたら3時間の持ち時間も危なくなってきたので、あまりのんびりできずにカフェを出る。
商店街を斜めに渡って駅に戻って、吉松行きの普通列車に乗る……はずが、あれー、これは普通列車じゃないんじゃないの。デザインもすごく豪華だし、「いさぶろう・しんぺい号」って書いてあるよ。そして、いかにも観光客といったじいさまばあさまが大量にいらっしゃる。なんだこれは。ホームには弁当売りのおじさまがいる。「べんとーーぃ、××(聞きとれず)?!」といい声をあげてる。
どうやらこれは観光用の普通列車とのこと。中が和風個室居酒屋みたいな感じになってる。お客のじいさまたちはお酒も入っていい感じです。特急ではないけど、指定席で500円必要でした。きちんと調べておけばよかった。
この区間は利用者がほとんどいなくて、もはや路線そのものが観光用になっているのだ。ループ線とか、古い駅舎とか、スイッチバックとか、見ものが連続でたくさんありますものね。
隣席の敬老会御一行が盛りあがるなか、一駅目の大畑へ。ここは「ループ線の中にあるスイッチバック駅」という日本唯一の環境なので鉄ちゃんには特に人気が高く、駅舎(古いまま残してあるどころか、看板などはあえて古いものに付け替えたんじゃなかろうか)のあらゆるところに、来駅記念の名刺がはさんであります。
誰かがやり出したのを人がまねていったんだろうけど、駅舎中名刺だらけですごいことになってるんだ。神社に貼られた千社札のよう。
なぜ途中駅の駅舎をこんなに見れるかというと、この観光列車は一駅一駅で数分ずつ見学用に停車してくれるからです。なんかそういう100%観光用の感じはあんまり好きじゃないんだけど、たまにはいいか。
ループ&スイッチバックの大畑の次はSLがなぜか保存してある矢岳。その次はスイッチバックの真幸。
すべての駅に見どころがあって、しかもぜんぶ駅舎が古い。そんななかなかの観光スポットをめぐりながら私は何を見てたかというと、観光スポットも見たけど、盛り上がるお客のじいちゃんたちがかわいかったのでずっと見てた。記念写真を撮るじいちゃんたちの写真を撮ったりしていた。すみません。
で、汽車は終点の吉松駅につく。
敬老会御一行は、さらに次の特急に乗り換えて鹿児島へ向かってしまいました。しかし私とイノキンさんは吉松にとどまり、普通列車を待ちます。1時間以上。
吉松駅近くには喫茶店も見つからず、駅売店にもおみやげらしいものがほとんどない。1時間のひまをつぶすのに適したものがない駅であった。駅前にこれまたなぜかSLが展示してあるんだけど、そのまわりでは地元の子供たちが遊んでるからあまり見る気になれない。
ただ、駅の待合室になぜか畳の間があったのである!
そりゃ寝るわ。
わたしもイノキンさんもそこで寝転がって、ほんとうにちょっと寝てしまった。そうして鋭気を養って普通列車に乗り、嘉例川に向かう。
そう、今回の最大の目的は嘉例川駅。そして、嘉例川のために私たちは鋭気を養う必要があったんだよ。なぜかって、それはこの先で書きます。
吉松から隼人に向かう列車はスカスカな状態から途中で高校生を乗せ、嘉例川に着きました。
嘉例川は山間の集落にある無人駅。いままで見た駅も古かったけど、ここは随一で、国の登録有形文化財にも指定されているほどのところです。ここにはきちんと降りてみたかった。
嘉例川を日常ふつうにつかっている高校生たちも降りて、駅前に止めた原チャリに乗って思い思い帰っていく。待合室の木製ベンチもどうやら製造から百年以上経っているらしい。百年も人に触られて、つやつやになっているんだよ。
ただ、ここはやはりちょっと有名になっていて、駅の元事務室と思われるところにいろいろ資料が置いてあったり、多少は観光仕様になっています。ホームにある大きな看板も歴代のものが全部取ってある様子で、デザインの変遷がなかなかおもしろいです。
本屋は若干きれいにされすぎてしまった感じがあり、掲げられた「嘉例川駅」の看板だけが妙に新しいので、遠くから見るとロケ用のセットみたい。まあこういうのは致し方ないか。
嘉例川には、わざわざタクシーで乗り付けて観に来ている観光客とおぼしきカップルもいた。
電車で来いよなー。
「え、能町さん……私たちだって今までさんざんタクシーとか車に乗ってますよ」
あ、そうでしたね……。すみません。
で、わたしはこの嘉例川で何をしたかったか、というと、ただ古い駅を見てみたかっただけじゃない。
メインイベントは、嘉例川から鹿児島空港まで歩いて行ってやろう。という試み。
だいたい空港ってものは、都市からだいぶ離れた山奥だの海際だのというところにある。だからふつうはバスやタクシーや車で行く。都市にわりと近いところ(羽田とか)にある場合は電車等で直接乗りつけられてしまう。なんにせよ、空港に「徒歩で」行く、ってことはなかなか聞かないことです。
嘉例川というステキな駅は、なんと鹿児島空港の最寄り駅でもあるのです。じゃあ歩いて空港に行ってそのまま帰ればいいじゃない。っていう、ごく単純なことなのさ。
ま、最寄りといっても約5キロあるんだけどね。
でもいちばん近い駅なのは間違いないんだから!
歩いて行けない距離じゃないよ。歩くよ、マジで。
嘉例川の駅を出て、集落内の小さな道を右に進み、細い道を左に折れると、思った以上に狭い道! いきなり牛がたくさんいる。わ、ここ牛舎か。広大な牧場風景じゃなく、民家のとなりに牛舎、周りは竹林。道はどんどん山の中へ分け入って行く。舗装はされているけど、落ち葉のくさったようなのが堆積していて道はぐちゃぐちゃ。
ちょっと行く先不安になるのは、空模様がちょっと怪しいせいもある。でも今までの旅をすべて見事に晴れさせてきた晴れ女のイノキンさんがいるんだ。たとえ今日の予報が降水確率80%(マジ)だろうと、彼女ならどうにかしてくれる!
真っ暗な急坂を上ると、いっきに開けた。そこから大きな道に出るホッとした。
しかし、そこはトラックがボンボン走っていて、民家が見事に一軒もない、歩道もない、ずーっと森に囲まれただらだらの上り坂道。見渡す限り……いや、森で見渡せないけど、ほんとになんにもありません。なんか怖いな。
ぬるい上り坂をずーっと上がって、けっこう疲れて、すると道は途中から峠を越えて下ったり、また上ったり、起伏のある区間を越えて……まだ一軒も家がない。自販機とかももちろんない。トラックや車がたまに通るばかり。
2キロか3キロは歩いたんじゃないか。もうそろそろ空港らしき雰囲気が見えてもいいんじゃないの、と思っていたそのとき。
ゴオオオオ……
「あ、飛行機の音?」
「ですかね?」
「どっかに……あ!!!」
森のあいまに開けた空に、超デカい飛行機が登場!
「わあああーーー!!!」
「でっかい!! でっかいよ!!!」
そりゃもう大興奮だよ。空港以外で、あんな大きな姿の飛行機を見たのは初めて。着陸直前だったんだと思う。
こうなったらもう近いぞ!足取りも軽く、一気に森を抜けて、広大な飛行場が現れた……! と思ったら、あれ?
あそこの高いフェンスはまちがいなく滑走路の端だと思うけど、やたら立ってるプロペラのついた柱みたいなのは何? 空港の設備?
よくみたらここ、ただの広大な茶畑でした。プロペラは、茶畑にはよくある「霜よけ」なんだって。
やっと空港に着いたかと思いきや、滑走路がほんのちょっと見えるだけで、空港のメインの建物はどこだかさっぱり分かんない。空港の周りの台地はほとんど茶畑で囲まれていて、ここは茶畑の向こうに空港敷地のフェンスが見えるだけのところなのでした。
あ、台地の茶畑の先に、尾翼がちょろっとのぞいてる。かわいくてシュールでステキな光景! そしてこの光景に、イノキンさんは今まででいちばんテンション上昇!
「すごいですよここは! 写真撮りましょう写真!!」
イノキンさんは私よりも率先して茶畑のどまんなかの細い農道にぐんぐん入っていった。
茶畑の中にポツンと光るイノキンさんのピンク色のパーカーと、まるで茶畑の上に着陸したように見える飛行機と……。映画のような幻想的な光景がそこに出現したのであるよ。ほんとうにいい絵でした。
空港って滑走路がすごく広いので、茶畑ゾーンから空港の入り口に行くまでは意外にもかなり長く(たぶん2キロくらい)、いちど滑走路が見えて安心してしまった私たちとしてはちょっときつかった。
しかし、空港入り口に歩いて到達したときは、ついポーズをとって記念写真まで撮ってしまいました。まさに感動のゴール。
「最寄り駅(しかも文化財)から歩いて空港へ」、達成!
茶畑と飛行機という、予想もしていなかったすばらしいコラボレーションを見られたし、徒歩で空港に到達という無茶をやってみて本当によかった。最終的には鉄道ネタから遠くなってるけど、気にしない。気にしないよ。
それにしても、イノキンさんの晴れ女ぶりはまだ健在でした。降水確率80%にもかかわらず、雨はたまーにパラパラと降るくらいでほとんど傘は必要なかったのです。80%をどうにか力技でねじ伏せた形。このパラパラがいままでの取材で初めての雨なのでした。

(本連載『うっかり鉄道』は、10/8に全国の書店で発売されます!)
『おんなふたり、ローカル線めぐり旅 うっかり鉄道』(メディアファクトリー)
2010.10.01 | | 鉄道
第2回 岳南鉄道・富士と工場のテーマパーク
岳南鉄道がなんでこんなに注目されてないのか分かりません。
鉄ちゃん自体、もうわりと市民権を得た感がありますが、世は廃墟だとか工場だとかへの萌えでも盛り上がっているではないですか。岳南鉄道はこの3つの要素をあわせ持っているんです。鉄ちゃんのみならず、廃墟好きや工場好きのたぐいが大挙して押しよせてもいいはずなんですよ。
「ということで、今回は岳南鉄道さんぽに行きましょう。工場の景色がね、ほんとにいいの」
「はあ」
イノキンさんが工場萌えの素質を持ってるかどうかは置いといて、わたしが今知っている中ではいちばんアトラクション度の高いのが岳南鉄道です。静岡県の、富士山の南にあるから「岳南」。東京からなら新幹線で三島まで行き、各駅停車に乗り換えて吉原。そこから乗り換える私鉄です。東京からずっと各駅停車で行っても苦になる距離ではないです。
東京駅で待ち合わせると、イノキンさんは「昨日買っておきました!」と、やる気たっぷりで新富士までの切符を渡して来た。
いきなりうっかりだ!!
新富士は三島の次の駅だよ。行きすぎだよ。
「すいません、なんか、富士山のイメージが強かったのでつい……」
切符の払い戻しで早くも当初の予定から遅れたものの、新幹線でばーっと三島へ、そして吉原へ。
まだ午前10時。JRのとなりの小さなホームには、これまた 小さな赤い電車がかわいく一輌だけ停まっています。発車まではまだ時間があるので、休日限定の乗り放題切符を買ってからちょっと吉原駅周辺を歩いてみる。さみしい。駅前がガランとしている。いわゆるシャッター通りと言うよりも、もとからほとんど何もなかった風情。
のんびり戻ってきたら、あら、さっきの赤いのがもう行っちゃってました。次の電車まで40分待ちです。
わたしたち、こんなときどうする?
そりゃもちろん歩くよね。先の駅まで歩くよ。これまでいつも私はそうしていた。
イノキンさんが「地図あるんですか?」と心配してくるけど、なんとなくでいいよ。
こっちかなーっていう方向に歩けばどっかの駅に着くよ、たぶん。
ああ、正面にはよく見える富士、すばらしい青空。
しかしそれに反して、くさい。
このへんは製紙工場がたくさんあるんだ。煙突がモクモクしてて、くさい!!こりゃ東京より空気悪いな。
そんななかを、なんとなくの勘で次の駅に歩きます。来る前に少し見た地図の記憶では、2つ先の駅のほうになら歩けるはずだった。でも、勘の方向にいくら歩いてもなんにも見えてきません。街らしきところにたどりつくはずなのに、ずっと工場っぽい殺風景な景色が続いて、街っぽさのかけらもない。それにくさい。
2キロくらい歩いたら初めてコンビニがあった。チョコまんを買って、地図を見てみました。
超まちがってたー。
2コ先の駅を狙っていたつもりが、もう4コ目の駅のそばまできていたのでした。そりゃー長く感じるわけだ。ま、それでも4駅分歩いたのはある意味得したよ。
「あ、ほら、踏切見えてきた!」
「あ、よかったー。あのへんが駅ですかね?」
ふたりが達成感に浸ったのもつかの間、あ、目の前で踏切が閉まって、一輌のかわいい電車が、あ、無情にも……行ってしまった……。切符うっかり、道うっかりのおかげで電車を2本も逃すとは。また30分待たなきゃいけない。
やっと着いた岳南原田駅は年季の入った木造で、私の大好きな感じの駅だったのが不幸中の幸いです。写真とか撮ってぼんやりしてたら30分なんてすぐ過ぎるさ。
ほら電車が来ました。
ああ、やっと電車に乗れる。
岳南鉄道に乗りに来たのに、乗るまででこんなに文字を費やしてやがる! なんて効率が悪いんだ!
で、岳南鉄道のクライマックスは岳南原田駅と比奈駅の間なんです。道をまちがったせいでいきなりクライマックスシーンから乗っちゃって、ちょっともったいない。
なぜここがクライマックスかと言うと、工場と工場のまんなかを縫ってくねくねと電車が走るのです。電車の上を平気で工場のパイプがまたいだり、大きなタンクの横を通ったり、まるで工場の中を運ばれていく気分なんです! 電車が工場に呑まれてる感じなんです! ディズニーランドのアトラクションみたい!
あのワクワク感、文字じゃ表しきれないよ。
いきなりのクライマックスが終わると電車は比奈駅に着く。ここでもう私たちは降りました。
なぜか。ここにオシャレカフェがあるからさ。
ここには木造駅舎(意外にも無人じゃなかった)がぽつねんとあり、大きな富士が見え、その前にめちゃくちゃにパイプのはりめぐらされた工場があり、「喫茶美人」というボロッボロの看板(本体はどこだか不明)がある。駅のそばにはいつ打ち捨てられたのか分からない、塗装が完全にさび切った古い電車(?)がいくつも置いてある。あとは殺風景な工場の寮のようなものと砂利の敷かれた空き地しかない。そしてやっぱりくさい。
なんなんだこの荒涼とした地は。ゴーストタウンなのか。でも、富士が見えるからアメリカ西部の雰囲気は皆無。日本で唯一と思われるこんな独特の雰囲気の地に、ローカルオシャレカフェが! 奇跡の立地なのです。
駅を出て空き地をつっきり、人通りが全くなくてトラックだけがごくたまに通る道を渡ると、小さな四角いふつうの家がありました。よく見るとテラスにテーブルが置いてあって小さな看板があって、そこが「比奈カフェ」なのでした。
どこにでもある油断だらけの駅前喫茶ではありません。家具のひとつひとつがかわいく、だるまストーブがあるすてきなカフェです。ここにオープンしてまだ5年程度らしい。
なによりこのとんでもないロケーションで、私はここに200点くらい与えてしまう。だってここ、21時半で終電が行っちゃう駅と、工場しかないんだよ。そ して富士が見えるんだよ。ここにカフェを作ろうっていう意気に花束だよ。わたしは2か月に1回くらい、自分へのごほうび(OL用語)としてここに来たいね。ここでだらだら本読んだり仕事したり、するんだ。ふふ。
長く歩いた疲れもあって、私とイノキンさんはそこでだいぶだらだらしてしまった、が、岳南鉄道にはまだ一駅分しか乗ってないんだった。もっと楽しまなきゃ。ちなみに、岳南鉄道の乗り放題券は400円という採算度外視の価格でございます。終点まで片道320円なのに! ひどい安さだよ、だいじょぶなの?
比奈から、とりあえず終点まで行ってみましょうか。車内の席は2〜3割しか埋まってない。休日のためか、いかにも鉄ちゃんと思われるおじさまがたがものものしいカメラをたずさえて乗っている。が、ビニール袋を牛乳やらミカンやらでパンパンにして爆睡している母娘連れもいます。よかった、地元の人もいるんだよ。田舎に行って鉄道を使うと、「乗って残そう○○線!!」っていう看板がよく置いてあるけど、それはもうつぶれそうだというサイン。岳南鉄道にそれはなかったのだ。ここはきっとつぶれないよ。
そんな電車はのんびりと終点の岳南江尾駅へ。
岳南江尾。どことなくこの世の果てのような悲しい駅。木造の古い駅舎はあるけれど、人はいない。駅を出ても店ひとつない。前に来たときは駅を出てすぐ蛇に出くわした。
なんでこんなに悲しい気持ちになるかというと、きっと真上を通る東海道新幹線の高架線路のせいです。ときどき、ゴオオオ!! というとんでもない音を立てて新幹線が一瞬で通過する。高架の陰のせいか、一帯は薄暗い。この小さな駅も鉄道という点では一緒のはずですが、あまりの格差です。
せめてここに新幹線の駅を作ってあげればよかったのに。
そしたらみんなこの駅を乗り換え駅にして、どこかに行くのにね。
でも、私はほんとは、このさみしさが好きなんだ。
岳南江尾では特に何も見ず、いま来た電車にそのまま乗って戻ります。あれ、さっきの買い物袋をもった母娘連れがまだ乗ってる。え、なんでここまで来たの? まさか、鉄ちゃん? でもその生活感あふれる買い物袋はどう見ても地元の人。
母娘は岳南富士岡駅で降りました。小4くらいの女の子が、いそいそと電車の写真を撮っている!
どうやら、まさかの母娘鉄道マニアなのでした。父&息子なら分かるんだけど、いまどきの鉄道マニアの裾野は広いなあ。でも、買い物袋からして、地元の人なのはまちがいないと思う。地元の岳南鉄道が大好きってことなのかな。
電車は起点に戻って行き、その間、またさっきの比奈〜岳南原田間のクライマックスゾーンを通ります。
工場! パイプ!! わたしはこの雰囲気を収めたくなって、デジカメを動画モードにしてしまった。
「いちばん前に行って撮りましょうよ!」
イノキンさんがそそのかすものの、すでに電車大好きの小学生数人がかぶりつきの席にいる。そこにこんな得体のしれない中年女性が行ってはいけないと思う(自分で中年って初めて書いた。今日は中年記念日)。
そんなわけで、子どもの頭越しに、こっそりと動画を回しました。
画面下部にずーっと子どもの後頭部が映りこんだ工場動画を撮り終え、私たちは本吉原駅で降りた。
すごい駅です。「本」がついてて本物感を出してるわりには、バーミヤン(ファミレス)の駐車場のフェンスの途切れたところが入口と言う、異様に肩身が狭い無人駅です。広い駐車場と巨大な工場のタンクの間にちょびっとホームが置いてある感じで、かなり近くに来ないと駅の存在にすら気づきません。

本吉原と吉原本町(次の駅。名前がややこしい)のあたりは吉原という街の中心地。駅間の距離がものすごく短いので、私たちは吉原の街をさんぽしながら吉原 本町駅に向かいました。
おっきなコッペパンのある「日東ベーカリー」は、コッペパンの間にいろんなクリームをサンドしてくれます。私はきなこクリームをサンドしてもらいました。イノキンさんは、あんバター。男子学生レベルのボリュームでした。
吉原本町の駅は小さいけれど、本吉原と違ってだいぶ存在感がある。きちんと商店街がつらなっていて、街っぽい。じゃっかんシャッター通りのケがあるけれども、岳南鉄道とともにがんばっていただきたいものです。
吉原本町駅から吉原駅まで戻る間も、左右に工場が見える。間にある「ジャトコ前」駅なんていかにも工業地帯の駅です。その名のとおり、ジャトコという工場の前にあります。でも、工場群はちょっと線路から離れているので、アトラクション度で言うと断然「岳南原田〜比奈」のほうが上だね。
とまあ、どうにか乗りつくして吉原駅に帰ってきた私たちです。
「わたし、いきなり切符まちがえてすみませんでした……」
「いや、私こそてきとーに歩いたから道まちがったし。でも、やっぱりここ楽しい」
「あ、そうですね。駅がかわいかったです。あと、途中の駅にいた猫が」
イノキンさんのツボの中に工場は入ってなかったです。
でもいいの。ふたりともテツかわいい部分は十分味わったから。
(次回は、4/23に更新予定です)
2010.04.08 | | 鉄道
第1回 鉄道の日に、一番好きな駅へ
まだ取材の計画など何もない段階で、いきなり担当のイノキンさんがメールしてきました。10月14日は鉄道の日だから手っ取り早くどこでもいいから取材しよう、と。どこでもいいって言われても。日本(の鉄道網)は広いよ。九州行ってもいいの?
「予算も考えて、近場で!」
ま、そうだよねー。関東の近場はだいたい乗ったことあるんだけど、いちばん好きな駅に行くってことでどうですかね。
「乗りつくしてるんですか!? さすがです!」
いや、「尽くしてる」って言うと大ごとになるけど…。乗るために乗る、みたいなことはあんまりしてないよ!
イノキンさんは、私を鉄道の師匠のように敬ってきます。ちがうってば。マニアなつもりはないんだってば。ただちょっと旅行が好きで、移動手段ではちょっと鉄道が好きで、ちょっとのんびりしたもの(各駅停車)のほうが好きなだけです!
で、そんな他称鉄道マニア(自称はしない)の私がいちばん好きな駅は国道駅なのです。
JR鶴見線・国道駅。京浜東北線も走ってる鶴見駅のとなりの駅。あれはもう20年近くも前(そんなに前なのか…)幼いわたしは初めて鶴見線に乗ったのだ。それは中学校の同級生に鉄道マニア(自他ともに認める逸材)がいたからです。どういうわけか、私はその人と鶴見線小さな旅に行ったのです。そのとき、国道駅はただ通りすぎただけだった。
でも、私は見逃さなかった。ホームの隅っこにあった、一面を完全に赤さびで覆われた駅名看板を!
「こくどう」の字も読めないほど全面錆びている! 何あれ! キャーステキ!
キャーステキはそんなところで言う単語じゃないだろう。
錆びた看板に惹かれるなんて、ずいぶんと珍種の中1だと思うのですが、私は残念ながら今でも錆びた看板が大好きなのだ。これはおそらく誰かに影響されたことではないのです。人生、一貫して錆とか廃墟とかが好きなのです。先天性の病気か何かなんだろうか。
その錆び看板は私に強烈な印象を残しました。でも、おこづかいも少ない田舎の中学生はすぐにまたそこに行けるわけじゃない(友だちもいない)。夢を膨らませながら数年の時は流れ、私はある日ついに国道駅を目指して旅に出た!
……はずなのに、それがいつなのか思い出せない。高校のときのような大学のときのような。たぶん一人じゃないんだけど、誰と行ったのかも思い出せない。
だって、胸躍らせて行った国道駅に、もう錆び看板はなかったんですもの……。
さすがに撤去されちゃったか、と落ち込みながら、高架のホームから階段を下りてみた。
とんでもない異空間だった。
びっくりです。錆び看板の存在なんてかすむほど、ここはすばらしい駅だったのだ!
ホームから降りると、鉄道の高架の真下に通路が伸びていて、左右が家や商店でふさがれています。通路はところどころが大きな電球で照らされているだけなので、昼でも薄暗い。何にたとえたらいいか、地下文明というか、ラピュタというか、本当はいい奴なのに出来心で悪事に手を染めた男が映画のラストで殺されてしまう場所というか。屋根をささえる柱はアーチ状で、荘厳でゴシックな雰囲気も感じる。滅びの美を感じさせる異様な佇まい。
昭和5年に駅ができたらしいんだけど、大きなつくりはおそらく約80年変わってないと思う。
この高架下の並びは、商店街と言いたいところだけど、店がないです。店の遺跡しかない。
基本的に無人駅なのだけど、改札部分には駅員が入るスペースの木製の枠だけが残っています。30年以上前に無人駅になったんですって。この木枠がまた、何十年にも渡って人に触られたことで年季が入ってつるつるになってしまっていて、ほんといい味。
この昭和遺跡がわたしは大いに気に入ってしまって、それから何度行ったか分からない。最近は年1回くらいで行ってる。ひとりでも行ってるし、いろんな人を連れて行ったりもした。風流を解する私のお友だちは皆ここを気に入ってくださるのだ。
そんなね、何度も何度も行ってるところに改めて取材で行くってのも複雑な気持ちですが、好きな場所なら苦もないさ。東京方面からだと鶴見から乗りかえるのが早いに決まってるんですが、変則ルートを取ってみました。
川崎から南武線で尻手に出て、そこから南武支線で八丁畷、八丁畷から京急で花月園前。花月園前から国道まで、徒歩。この両駅は歩いて5分の距離。
なんでこれをやったかというと、八丁畷駅も好きな駅ランキングでトップ100に入るくらいのところだからです(100かよ。多いな)。八丁畷の駅もちょっと変な作りなのです。京急の向かいのホームに行こうとして跨線橋の階段を上がると、上がった先がJRのホームになってる。
JR八丁畷のホームは、高架の上にポツンと1つあって妙に日当たりが良く、大きなライブのステージみたいです。ギターソロとか弾きたいね。弾けないけど。ここは小津安二郎の映画「お早よう」にも使われているんですよ。ふつうに映画を見てたら「あれ? ここ八丁畷じゃね?」と気づいてしまった私がいるんですよ。
やっぱりマニアじゃないんですか? いえ、違いますってば! 怒るよ?
八丁畷ホームには、すみっこに「ホームヨシ!」という車掌の確認用(?)の標示がある。イノキンさんはそれを見てテンションがあがった。お嬢さん、そういうのはきっと今後たくさん見ることになるんですのよ。
八丁畷で京急に乗り換え、花月園前駅で下車。花月園前でわざわざ降りたのも、ちょっとしたポイントがあるからなのです。
花月園前踏切。
京浜東北線、東海道線、横須賀線、京急本線、ほかにたぶん貨物線とか(この企画では細かいことは特に調べませんよ)、えらい本数の線路が走っている、日本一長いといわれる(←異説あり)踏切。中洲まである踏切。この危なっかしい踏切の前には、やっぱり「急いでいる方は○○の歩道橋をお使いください」みたいな看板がやたら貼ってあります。
そんな踏切を、命知らずの特攻野郎である私たちは平然と渡るわけだ。渡りながらイノキンさんは写真なんか撮っちゃったりしてね!
……いや、拍子抜けだった。踏切の開いている時間はけっこう長かった。まあ平日の昼、ラッシュ前ですからね。朝晩はきっと開かずの踏切なんでしょう。
花月園前駅から国道駅へ向かう。国道15号に沿って歩いて行くと、鉄道の高架が現れます。その下の真黒い口が駅の入り口。
高架の下、滅びの美は滅びてなかった。いつ来ても癒される絶望的な感じ。生きる目的が分からなくなったあらゆる悩める大人に来てほしい駅だなあ。
うれしい誤算は、国道駅の下の国道下が開いてたことです。
ええと、意味が分かりにくいですかね。国道駅の直下にある「国道下」という焼き鳥屋が開いていたのです!
国道駅の暗い通路にあるお店は、看板で見る限りは「三宝住宅社」「衣料・雑貨 フリーウェイ」「国道下」「お酒とお食事
とみや」「釣り船荒三丸」なのですが、わたしはどれひとつとして開いているのを見たことがない。ほとんどはシャッターが固く閉じられて看板が薄汚れ、闇のオーラがただよっている。私は壊滅したものと思っていた。だって、その並びに住宅もあるんですが、壁が今にも崩れ落ちそうで、扉に大穴が開いてたりする。もうどっから見ても生きてる感じがしない。
壁の間に、かがめばどうにか通れる通路みたいなものが1か所だけぽかんと開いていて、そこからわずかに日が漏れています。そこをくぐって駅の外に出ると、何があるわけでもなくとても狭い路地が続いている。壁には、「小便するな」と書いてある。怒りに震えた相田みつをみたいな字。
……そんなところですよ。商売なんか行われてないと思っていた。ただ、国道下と荒三丸だけは、看板があまり汚れていませんでした。
わたしはたいがい休日にここに来ていた。平日の夕方以降にここに来るのは初めてだったのです。そうか、国道下は平日夜なら開いているんだ!
まだここはとても元気だ! うれしい!
お店の前にテーブルを出して焼き鳥をほおばる家族づれもいる。しかし、たぶんここは駅構内。こんな駅でも「構内駐輪お断り」なんて書いてあるんですが、「構内にテーブルを出して飲酒」はOKなんでしょうか。OKだよね。そうでなくっちゃね。
ざんねんながらあんまり時間のない私たちは、焼き鳥をテイクアウトすることにしました。
「おいくらですかー」
「50円!」
安すぎ!! 東京の下町より安いよ。
いつか国道下でゆっくり飲みたいと思いつつ、私たちはホームベンチで焼き鳥を食べた。電車は案外ひんぱんに来るし、けっこう混んでる。
「どう……ですか、私とテツ旅をするとこんな感じになっちゃうんだけど。一駅観察しまくるだけで終わっちゃったり……」
「いえ、いいです! ここ、いいですよ! もっといろいろ知りたいです!」
なぜか鉄道を知ることに貪欲なイノキンさんと、鉄道マニアを否認する私の旅はまだ始まったばかりなのです。
2010.03.25 | | 鉄道
第0回 プロローグ
「能町さん、鉄道の企画やりませんか?」
と担当のイノキンさんが持ちかけてきたとき、私は喜びました。わたしは確かに鉄道がかなり好きです。
しかし、私はいわゆる鉄ちゃん(=鉄道マニア)ではないと思います。(そういえば鉄ちゃんは自らが鉄ちゃんであることを否定するとよく聞きます。ってことは、否定してる私=鉄ちゃんだってことになるんだが、ややこしいのでこの点については考えない)。だいたい私程度の知識や経験では鉄ちゃんを名乗れませんよ。だからね、鉄道企画で旅できるのはうれしいですけど、私は旅行好きの一環で鉄道も好きって言うだけで、そんなにいろいろ知らないですよ。それでもいいですかね。
「そうですか?」
だって四国とかほとんど行ったことないし、南九州も全く経験ないし。だいたい、行ったことない県がある時点で、かなり甘いと思いますけど。
「えっと……じゃあ逆に、このへん(関東)はどうなんですか」
ああ。関東は確かにほとんど乗ってるかも。
「ほとんど、ですか!?」
じゃ、ちょっと路線図描いて確かめてみましょうか、と言って私が手持ちの雑紙に関東の鉄道路線図を描こうとすると、イノキンさんが大げさに驚くんです。
「路線図が描けるんですか!!」
え、まあ、そのくらいはできますけども。私鉄を混ぜるとごちゃごちゃになっちゃうんで、とりあえずJRだけですけど。関東だけなら私鉄もたぶん描けると思いますよ。
「なんで描けるんですか!?」
イノキンさんが驚いていたのはほっといて、わたしはとりあえず路線図を描いてみました。
「あー、この吾妻線は乗ってないんです。あと、久留里線の平山から先、水郡線の谷河原〜常陸太田間も乗ってないですね。あと、関東の私鉄もちょっと乗ってないところがあります。西武園線とか……」
「……すごいじゃないですか!! ほぼ乗ってるじゃないですか!? じゅ、十分マニアですよ!」
そうなんですかね。鉄ちゃんの本とか見てると、すごい人ばっかりだから自分では全然分かんないです。
「あの、なんでほんのちょっとの区間を乗ってないんですか? この水郡線の一駅分とか……」
あ、それは、私はついテキトーな駅で降りたり、一駅分歩いちゃったりするのが好きなので、そういうことをやっちゃうんですよ。全部乗っちゃったら、最初と終点ばっかりで、途中の駅を味わえないじゃないですか。途中駅のほうが古かったり、趣きがあったり、いいんですよ。
「なんか全然分かんないんですけど、それ、やっぱりマニアだと思います!」
そうかなあ。単に景色を楽しんでるだけなんですけどね。
「私、この路線図保存させてください! ほしいです!」
いや、いつでも描けますので、どうぞどうぞ。
「もしかして駅とかすごい暗記してたりするんですか?」
そういうのは恥ずかしいよー。暗記して悦に入る子供みたいでさ。別に覚えようとしてるんじゃなくて、乗ってるうちに覚えちゃうんですよ。
「じゃあ、例えばえーと、小田急線って言えますか?」
私はひととおり駅を諳誦してみた。
新宿から順に、新宿、南新宿、参宮橋…(略)…海老名、厚木、本厚木、愛甲石田……。
「す、すいません、そこから先はもう手帳にも載ってないから確かめられないです……」
あ、そうなんですか。手帳に載ってる路線図って小さいんだ。
「なっ、なんでそんなに覚えてるんですか……?」
たぶん鉄ちゃんの人だったらもっとすごいと思いますけど。このくらいはたぶんふつうのような気がします。
「衝撃的ですよそれは!」
そんなわけで、自分自身を全くマニアだと思っていない私と、私を鉄道の師匠のように仰いでしまっているイノキンさんによる、あくまで我流の鉄道乗りまくりレポートが始まることになったのです。
上の文章で私がマニアっぽく見えたらそれはイノキンさんがそう書けと言ったからです。私はマニアではないですから! ね!
(次回は、3/25公開予定です)
2010.03.16 | | 鉄道
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プロフィール
Author:思いつきツアーズ
能町みね子
大学卒業後、ネクタイ時代、OL時代を経て、現在は文筆業&イラスト描き。雑誌、Webなどに多数の連載をもつ。
著書に、モテない系女子の日常を描いたフィクション漫画『縁遠さん』(メディアファクトリー)、一部の女子に熱狂的な支持を受けた『くすぶれ!モテない系』『呻け!モテない系』、世の中のすべてをロハす基準で格付けした『ロハす事典』(すべてブックマン社)のほか、『たのしいせいてんかんツアー』(竹書房)、『オカマだけどOLやってます。完全版』(文春文庫)など。
能町みね子のふつうにっき
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